今回のオンライン授業実施に併せて、ご存じのように、約2万人の春学期授業履修者に一律5万円の学修環境整備奨学金(総額約10億円)の給付を行いました。この金額は、学生のみなさんの実情に寄り添ったものであると自負しています。加えて、学生のみなさんには直接には感じとられないかもしれませんが、オンライン授業の全面実施にあたり、必要なソフト・ハード両面での整備に、例年にない多額の支出を行っています。また、家計急変のあった学生向けの本学独自の奨学金についても、臨時募集を追加するなど、例年より多くの予算を割いており、現在も校友会の協力を得ながら「緊急奨学支援」を呼び掛けているところです。さらに秋学期には、授業評価アンケートでの要望に応え、学生が無料で利用できるコンビニプリントサービスを提供する予定です。今後も、必要な学生支援については、不断に検討してゆく考えです。
以上を踏まえ、本学の学費に対する考え方を述べますが、その前に、学生のみなさんからは「学費の使用用途」の開示を求める声があります。これについては、当然ながら、大学の情報公開の一環として、学費のみならず補助金等も含めた収入がどのように支出されたか、例年、大学ウェブサイトにて大学の財務状況は公開されています。
さて、本学の学費に対する考え方を端的に示すと、大学の学費は長期的な観点から設定されており、年度毎に短期的に変動するものではない、ということです。敷衍すれば、現在の学生のみなさんが享受できる本学の基盤、具体的にはキャンパスや施設、あるいは本学の学位の社会的信頼といったものは、現在の学費によってのみ支えられているだけでなく、過去の学費によって築かれてきたものでもあります。したがって、学費は、今現在の大学教育だけでなく、本学の将来にわたる基盤整備のために用いられることにもなります。
この考え方は、学生のみなさんが疑問を抱いている施設利用についても重要な点を示しています。というのも、先ほど述べた財務状況の公開情報の中の重要な数字の一つに「当年度収支差額」があります。この収支差額のプラスを数年から数十年、積み重ねることによって、単年度の学費では決してまかなえないような、何億円、何十億円という多額の資金を要する建物や施設を大学は備えることができます。言い換えれば、現在の大学の建物や施設は、単年度の施設利用料(そもそも本学の学費には施設利用料という細目はありません)だけで学生が利用できるようになっているのではなく、過去の学費によっても支えられているということです。
一方で、今年度の収支差額は、例年にない支出によって、大きく落ち込むことが予想されています。これは、将来の学生のために古くなった建物や施設の更新に用いるための資金が減少するということであり、平時であれば、大学として何としても回避すべき事態です。しかし、今年度実施した学生のみなさんに対する多額の支出は、まさに今回のコロナ禍に直面した学生に対する支援のためであり、そのためには今年度の収支差額の落ち込みもやむを得ない、と大学として判断したものです。
なお、6月以降、徐々にではありますが、図書館の利用や課外活動・キャンパスへの入構禁止の緩和などを行い、少なくない学生のみなさんが大学施設を利用し始めていることもここで付言しておきます。
現在、新型コロナウイルス感染症にどう向き合うべきか、様々な社会的軋轢が生じています。感染症を巡って、多くの人々が互いに批判し合い、ときにいがみ合い、残念ながら、社会的合意や協調が速やかに形成される気配を感じられません。しかし、闘うべき相手は感染症であることを決して忘れてはなりません。感染症を克服するためには、今後、社会はよりいっそう協調していかなければなりません。
本学もこれまで、学生の「生命と健康」および「学びの機会の確保」を最も重視しながら、感染症と闘うための様々な措置を講じてきました。もちろん、未知のウイルス感染症への対応がゆえに、これまでの措置も完璧ではなかったかもしれません。しかし、コロナ禍の長期化が懸念される現在、本来闘うべき相手である感染症を克服するためには、今後も大学として必要な措置を講じてゆくつもりです。その際には、今回図らずも春学期に全面実施することとなったオンライン授業のさらなる可能性を精査し、その有効活用や対面授業との組み合わせによるハイブリッド型授業の可能性等も検討しながら、これまでの大学教育を超えるような、より質の高い教育の提供へつなげたいと考えます。今後も、学生のみなさんの声を真摯に受け止めながら、立教大学にふさわしい「新常態」を築き上げてゆきたいと思います。
2020年9月11日
立教大学総長
郭 洋春